2013年7月18日木曜日

30年近く前のことをふと思い出した

 きっかけとなるようなことがあったわけではないが、ふと20年くらい前のこと、1985年あたりのことを思い出した。

 当時、私は生化学屋の見習の卵といった日々を過ごしていた。ある酵素の活性と物性の測定が本業のテーマであったのだが、当時の私は、与えられた研究テーマとは別に、単量体として産生されたであろう酵素が溶液中で二量体や四量体になる過程に興味があった。

 液相中での酵素の構造や動態をつきとめることは難しくあるのだが、結晶化させた酵素から分光学的に決定した構造をもとにしたモデルをもとにした議論はずっと議論されてきており、条件を変えて作成した酵素結晶から、金属錯体を構成すると構造が変わる例や、ある分子鎖を別の酵素が切断すると新たな構造に変わるという例が明らかになっていた。結晶化条件をもとに酵素の活性中心の形成については、錯体形成や物理形状の変化が影響しているといったモデルが提示され、それをベースに、たぶんほかもこういう格好ってな議論がされていたように記憶している。多量体の形成については、電気双極子の影響として語られることが多くあったのだが、周りにはランダムに配向した双極子 - 水分子・ないしは水分子クラスタががワラワラ有る筈だし、軸状のものがペアになるだけではない。何か違う近距離力が働いて多量体を形成するだろう気がしていた。

 専攻基礎教育での分子間力や分光学の話を聞きかじってはいたせいだろう。四極子以上の多極子が多量体の最終的な位置合わせに少なからず影響しているだろう気がしていた。活性部位の構造変化の類の機序で多量体が組まれるとすれば、それ以上に大がかりな蛋白質生産の機構が必要な筈で、有って悪いとは言わないが、無いんじゃないかなと信じていた。

 もし多極子の影響が相応のものであるならば、磁場をかけた空間で特定の電波を照射すれば分子の方向が揃うのではないか、そして、揃うことで、液相中の構造が、分光学的に露わになるのではないか。そんなことを考えていた。常温の水溶液系で分子を揃えることができればスゲーんじゃないか。そんなスケベ根性はあったと思う。

 そういった考えをまとめ、ある日、指導教官の教授に相談してみた。先生の伝手でどこかで実験させてはもらえないだろうか・と。指導教官は「着想はおもしろい。しかし、君は非常に実験が下手である。一方、君が言っている実験は非常に難しい。悪いことは言わない。辞めとけ。」と言う反応だった。「事実、はるかに易しいはずの本業の研究テーマもろくに進んでいないじゃないでしょ。」という指摘もあった。

 当時の私は「なにくそ!」とは思わなかった。自らあきれるほど実験下手であることは、大学に入学して以来思い知ってきたし、教官の指摘には反論の余地すらなかったからである。

 十年も時代を下れば計算機実験でとりあえずやってみるってこともできあたかもしれないが、当時の私は思いつきもしなかった。


 などということをふと思い出した。今はどうなってるんだろーね。